
外壁塗装前に知っておくべき!アスベストの事前調査と危険性

2023年10月から、外壁塗装を行う際に「ある調査」が義務化されたことをご存じでしょうか。それが、アスベストの事前調査です。これまで一般的なリフォーム工事では重視されることのなかったこの調査が、新たなルールとして導入されたことで、これからの工事では業者選びにも一層の慎重さが求められるようになりました。
ここでは、アスベストに関する基礎知識から事前調査が必要とされる背景、さらには業者選びで失敗しないためのポイントまで、外壁塗装や建物のリフォームを検討している方に向けて詳しく解説していきます。
今さら聞けない!「アスベスト」とは何か?
アスベストとは、自然界に存在する繊維状の鉱物で、日本語では「石綿」とも呼ばれています。一見すると無害に思えるこの物質は、耐熱性や断熱性、電気絶縁性などに優れており、かつては非常に安価だったこともあり、建材や断熱材、さらには自動車部品に至るまで、さまざまな分野で広く利用されてきました。
高度経済成長期の日本では、このアスベストが至るところで使用されており、当時の建築物の多くに含まれています。
しかし、その後の研究で、アスベストの微細な繊維が空気中に飛散し、それを人間が吸い込むことで深刻な健康被害をもたらすことが判明。現在では国内での使用が全面的に禁止されています。
有資格者による調査が必要に
新たに施行された規定では、建物の外壁塗装を始める前に、アスベストが含まれている可能性のある建材について、専門の資格を持つ調査員が確認する必要があります。調査の方法には、図面や仕様書による書面確認、現場での目視確認、そして必要に応じて採取サンプルの分析などが含まれます。
こうした調査の結果は記録に残され、関係機関への報告義務もあります。つまり、単なる目視での確認では済まされない、正式な手続きが必須となったのです。調査が適正に行われていなかった場合、施工業者や発注者にも法的な責任が発生する可能性があるため、事前の準備がこれまで以上に重要になります。
また、塗装工事の依頼主である施主にも、必要な情報を提供する責任が求められています。単に業者にすべてを任せるのではなく、建物に関する資料の提供や過去の修繕履歴の共有など、協力体制を整えることがスムーズな調査につながります。
新たに規制対象となったアスベスト建材の種類
アスベストを含む建材には、その危険性に応じて3つのレベルが定められています。
これまでは、粉じんが飛散しやすいレベル1とレベル2の建材のみが規制対象とされていました。しかし今回の改正により、レベル3の建材も新たに規制の枠組みに加えられました。
レベル3に分類されるのは、成形板や塗材など、これまで比較的安全とされてきたものです。たとえば、住宅の外壁に使われる窯業系サイディングや、屋根材として人気の高い化粧スレートなどが該当します。
レベル | 特徴 | 該当建材の例 | 規制対象 |
---|---|---|---|
レベル1・2 | 粉じんが飛散しやすく危険性が高い | 吹付け材など | 従来から規制対象 |
レベル3 | 比較的安全とされてきたが新たに規制対象に | 窯業系サイディング、化粧スレートなど | 改正後に規制対象へ追加 |
これらは住宅リフォームでも頻繁に使用されてきた建材であり、過去に施工された家屋には広く分布している可能性があります。施工前にこうした建材が使用されているかどうかを正確に把握することが、今後の安全な施工の第一歩となります。
築年数がカギとなる調査の必要性
すべての住宅で調査が必要になるわけではありません。実は、アスベストの使用が法律で完全に禁止された時期を境に、調査の対象外となる建物もあります。
具体的には、2006年以降に建設された住宅は、基本的にアスベストが使われていないとされており、調査といっても関連書類の提出だけで対応できるケースが大半です。この年は、建材へのアスベスト使用が原則として製造段階から禁止された節目であり、以降に新築された住宅はその対象外とされています。
一方、2006年よりも前に建てられた住宅については、アスベストの使用がまだ認められていた時期に該当するため、調査を省略することはできません。年数が経過している住宅であればあるほど、建材の中にアスベストが含まれているリスクも高まるため、慎重な確認が不可欠となります。
自宅の外壁がアスベストなのか確認する方法は?
最近では、外壁にアスベストが含まれているかどうかの確認が必要になるケースも増えています。
では、もし自宅の外壁にアスベストが使用されているかを知りたいと思ったとき、どのように調べればよいのでしょうか。
今回はその確認方法について、わかりやすくご紹介します。
国のデータベースを活用して調べる
まず、もっとも手軽に確認できる方法として、国土交通省が公開しているデータベースの活用が挙げられます。このデータベースでは、実際に使用されている建材の商品名やメーカー名、型番を入力することで、その製品にアスベストが含まれているかどうかを調べることができます。
仮に施工時の資料や記録が手元にあり、そこに記載されている建材の情報が正確に把握できていれば、この方法は非常に有効です。特に、外壁材の種類やモデル名が明確に分かっている場合は、インターネットを通じて簡単に調査結果を確認できます。公的な情報に基づいているため、信頼性も高く、最初のチェックポイントとして活用するには十分な手段だと言えるでしょう。
ただし、すべての住宅でそのような資料が揃っているわけではありません。もし施工時の記録が残っていない場合や、建材の特定が難しい場合は、他の方法も検討する必要があります。
築年数によってアスベスト使用の可能性を見極める
次に注目すべきは、建物が建てられた年です。アスベストの使用が法的に制限・禁止された時期と、住宅の建築年には深い関係があるからです。
具体的には、2006年よりも前に建築された住宅においては、外壁材にアスベストが使用されている可能性があります。
特に1980年代以前の建物では、アスベストが一般的な建材として広く利用されていたため、外壁や屋根、内装など、さまざまな部分に含まれているケースが少なくありません。
高度経済成長期に建てられた住宅は、当時の技術や資材の影響を受けていることが多く、建材にアスベストが使われていたかどうかを確認するための判断材料として、築年数は非常に重要です。資料がない場合でも、建築確認通知書や固定資産税の評価証明書などから建築年を調べることができます。
もし築年数が2006年以前であれば、アスベストのリスクを念頭に置きながら次の段階に進む必要があります。
正確に知るためには専門家の調査が不可欠
外壁にアスベストが含まれているかを本格的に調べたいと考えた場合、やはり専門の調査を受けるのがもっとも確実な方法です。特に最近では、アスベスト調査には特定の資格を持つ技術者が対応しなければならないとされており、誰にでも依頼できるものではありません。
「建築物石綿含有建材調査者」という国家資格を持つ専門家に依頼すれば、書面や現場での目視、さらにはサンプル採取による分析まで行い、詳細な調査報告書を作成してもらうことができます。こうした調査は単に法令順守のためだけでなく、住まいに住む家族や施工に関わる作業員の健康を守るためにも必要なプロセスです。
一方で、無資格の業者による調査は法的に認められていないため、仮に工事に進んでも調査が無効となるリスクがあります。その結果、施工主側にも罰則が課されるおそれがあるため、業者選びは慎重に行わなければなりません。
加えて、外壁のみを調べるのではなく、屋根や屋根裏、室内の壁など、建物全体に対して調査を行うことも大切です。アスベストは目に見えないところにも潜んでいることが多いため、広い範囲での確認を怠らないようにしましょう。
アスベストの外壁を安全にメンテナンスするためには?
住宅の外壁が劣化してきたと感じたとき、見た目の問題だけでなく、素材にアスベストが含まれている可能性も視野に入れたうえでメンテナンス方法を選ぶことが大切です。アスベストを含む外壁の修繕は、通常の工事とは異なり、健康リスクへの配慮や法令に基づいた対応が求められます。ここでは、現在主に用いられている3つのメンテナンス方法と、それぞれの特徴や費用感、注意すべきポイントについてご紹介します。
外壁塗装工事
もっとも手軽で費用負担の少ない方法として知られているのが、外壁の塗装です。この方法は、既存の外壁材をそのまま残し、その表面を新たな塗料で覆うというものです。アスベストを直接触れずに済むため、飛散のリスクが極めて低く、安全性も高い方法とされています。一般的な住宅における工事費用は、70万円から90万円程度と比較的リーズナブルです。
しかし、外壁に目立つ損傷や深いひび割れがないことが前提です。塗膜の劣化にとどまっている場合には塗装が有効ですが、もし外壁材そのものに傷みが生じているようであれば、塗装だけでは不十分です。塗ってもすぐに剥がれてしまったり、内部のダメージを覆い隠してしまうおそれがあるため、まずは専門業者に点検を依頼し、塗装が可能な状態かどうかを判断してもらう必要があります。
カバー工法
塗装では補えない場合、もうひとつの有効な手段として「カバー工法」があります。この方法は、今ある外壁材の上から新たな外壁材を重ねるというもので、既存の建材を撤去しないため、アスベストを外気にさらすことがありません。飛散リスクを回避できるうえに、解体作業にかかる手間や費用が抑えられるという利点もあります。費用の相場としては、140万円から150万円程度が一般的です。
とはいえ、この工法にも条件が付きます。外壁材そのものが健全な状態であることが前提です。下地にまで劣化が進んでいる場合、重ね張りしても内部の傷みが残るため、根本的な解決にはなりません。外壁の下にある構造材までしっかりと調査してから施工に移ることが大切です。
また、カバー工法によって外壁が二重になるため、わずかに建物の厚みや重さが増す点にも注意が必要です。住宅の構造に影響を与えないかどうかも含めて、業者と十分に相談することが求められます。
張り替え工事
アスベストを含む外壁材のメンテナンスにおいて、最も抜本的な解決策が「張り替え」です。この方法は、既存の外壁材をすべて撤去し、新たな建材で外壁を作り直す工事です。アスベストを完全に除去できるため、安全面では最も効果的な方法とされています。
ただし、外壁材の撤去時には、アスベストが空気中に飛散するリスクがあります。そのため、作業時には防塵対策が必須であり、通常の外壁工事よりも高度な技術と専門知識が求められます。この防塵対策だけでも20万円から60万円ほどの追加費用がかかることが一般的です。さらに、工事全体の費用は230万円から300万円程度と、ほかの方法に比べて高額になる傾向があります。
それでも、建物全体の劣化が進んでいたり、外壁材とその下地の両方に損傷が見られる場合には、この張り替え工事が必要不可欠です。安全性と長期的な耐久性を考慮すると、決して無駄な投資ではないといえるでしょう。
工法 | 費用の目安 | 補足費用 |
---|---|---|
外壁塗装工事 | 70万円~90万円 | 特になし |
カバー工法 | 140万円~150万円 | 構造確認等の追加調査費がかかる可能性あり |
張り替え工事 | 230万円~300万円 | 防塵対策費用:20万円~60万円 |
最適な選択のために必要なこと
どの方法を選ぶにしても、まずは建物の状態を正しく把握することが重要です。目に見える劣化だけでなく、外壁材の内部や下地の状況、そしてアスベストの有無についても、正確な情報がなければ適切な判断はできません。信頼できる業者に点検や調査を依頼し、それぞれのメンテナンス方法のメリットとデメリットをしっかりと理解したうえで選択するようにしましょう。
費用だけに目を向けてしまうと、結果的に追加工事が必要になったり、安全性を損なうことにもつながりかねません。安心して長く住み続けられる家を守るためには、初期の段階で正しい判断を下すことが何よりも大切です。